〇伊万里市射撃場・鉛汚染問題(佐賀県)

 1.伊万里市射撃場の鉛汚染とは
   佐賀県伊万里市大川内山の市営射撃場で起き、現在も続いている鉛汚染問題です。
   銃弾は鉛でできています。近年の射撃場はコンクリートで舗装され、銃弾が回収されるようになっていますが、古い射撃場にはコンクリート舗装がされず、
  銃弾が放置されているところも少なくありません。伊万里市営射撃場もそのような射撃場でした。鉛換算で57トンもの銃弾が放置されていました。
   鉛は蒸留水にも溶け出します。ましてや、伊万里地方では中国の大気汚染の影響で強い酸性の雨が降っており、鉛は溶液が酸性になればなるほど溶け出すので
  影響は深刻です。鉛汚染は、消化器症状や神経症状(学習障害・精神遅滞等)、手足の筋肉虚弱をもたらすほか発ガン性も持っています。実際、伊万里市営射
  撃場に隣接する水田で米を作っている農家では二人も胃がんで亡くなっていましたし、射撃場からの水が流れ込む川には、流入地点からかなり下流まで生物が
  生息していない、と言われていました。

 2.不法投棄を認め、射撃場閉鎖へ
   伊万里市の下平美代子市議から依頼を受け、2010年冬からこの問題に取り組み始めました。
   私が取り組むまで、地元では、水質汚染の問題としてこの問題を捉えていました。しかし、水の汚染値は天候や資料採取位置によって変動するので、なかなか
  対策を講じさせることはできません。
   そこで、射撃場を閉鎖に追い込むべく、攻め手として使ったのが、「産廃の不法投棄」という攻め手です(資料1参照)。放置された鉛銃弾は事業所(射撃場)
  から排出された金属くずですから、産廃に当たります。産廃が山に放置されているのですから、産廃の不法投棄あるいは不法保管に当たります。不法投棄・不法
  保管されていた産廃は金属くずだけではなく、銃弾を詰めているプラスチックトレイも、また的として放たれるクレーも不法投棄されていました。
   産廃を所管する佐賀県も不法投棄にあたるとは気づいていませんでしたが、交渉をつうじて指摘を認めるようになり、2011年11月から翌年3月末までにトレイ
  とクレーを回収させることができました。また、射撃場の閉鎖も勝ち取ることができました。
   しかし、鉛銃弾は、トレイやクレイと違って形が残っていませんので回収は難しく、土壌汚染対策法の適用をつうじて解決する必要がありました。

 3.土壌汚染対策法の適用へ
   ところが、伊万里市射撃場及びその周辺の土地に土壌汚染対策法を適用させるうえでは障害がありました。土壌汚染対策法は、汚染状態が基準を超えているうえ
  に地下水の取水口があったり水道水の水源になったりしているか、又は人が立ち入ることのできる土地でなければ適用されません(6条)。実は射撃場の不法投棄
  が問題になると、県や市はすぐに隣接水田の地主に頼んで、ロープを張って立入禁止にしてもらっていたのでした(これは、おそらく土壌汚染対策法の適用を免れ
  るために採った措置と思われます)。
   そこで、2012年春に伊万里市と交渉を持った際に、地主の方から「立入禁止措置を解除する」と言ってもらうことを打ち合わせて交渉に臨んだのですが、いざ交
  渉の場になると言ってもらえませんでした。
   次に私が地元を訪ねることのできた2013年春には、2月28日に伊万里市と交渉を持ち、地主の方の了解を得たうえで「地主さんは、立入禁止措置を解除すると言
  っておられる」と私のほうから言いました。その一言で事態は進展し、3月4日に塚部芳和伊万里市長が2014年度に鉛銃弾の除去作業を進める方針を表明しました。
   ところが、塚本市長は2013年6月に3月発言を撤回し、伊万里市散弾銃射撃場環境対策検討委員会(以下、「検討委員会」)を設置して検討するとしました(3月発
  言の撤回は、その後の推移から推測すると検討委員会委員から誤った見解が示されたためと思われます)。

 4.迷走する検討委員会
   私は、検討委員会で真摯に検討されれば鉛汚染問題も解決できるだろうと思っていました。ところが、検討委員会が迷走するのです。
   2013年8月8日に開かれた第1回検討委員会では、次のような的外れの意見がまかり通っていました。
   ①土壌汚染対策法は地下水汚染の場合にしか適用されないから、本件には適用されない
   ②鉛銃弾は一廃か産廃か定かでない
   ③土壌汚染対策法では土地所有者が責任を取らなければならない
   検討委員会には産廃問題に関する九州一の研究者を委員長に迎えたと言われていたのですが、あまりにもお粗末過ぎる意見です。
   検討委員会の議論に驚き、落胆された下平市議から連絡を受け、2013年9月2日付け意見書(資料2)を提出するとともに、県と交渉を持ちました。
   法律については県の担当者のほうが検討委員会の委員よりもはるかに理解が上で、資料2に示されている私の意見を素直に認めてくれ、①~③の誤りについては
  直すことができました。
   ところが、その後まもなく、地元の運動の中心となっていた下平市議が亡くなられたため、取組みは中断することになりました。

 5.取組みを再開
   2018年になって、地元から来訪してほしいとの依頼を受けました。射撃場及び鉛汚染問題を熱心に取材されていた伊万里ケーブルテレビの大鋸あゆり氏からの
  依頼でした。
   依頼のきっかけは、住民からの質問に対して検討委員会伊藤洋委員(北九州市立大学大学院国際環境工学研究科教授)がお粗末な回答をしたことにありました。
  伊藤委員は、上記①、③のお粗末な意見を述べた方ですが、今度は法的な誤りでなく、自然科学のうえでの初歩的な誤りで、次の④,⑤のような質問→回答でした。
   ④質問:環境基準を上回る鉛を含んだ水の害はどの程度か → 回答:70年間飲み続けて10万人に1人が癌になる程度
   ⑤質問:植物は鉛を吸収するのか → 回答:吸収しない
   環境のことを少しでもかじったことのある人ならビックリするようなお粗末な回答です。
   環境基準とは、大気・水・土壌をどの程度に保つことを目標に施策を実施していくかの目標を定めたもので、飲料水の基準ではありません。また、鉛に関しては、
  FAO(国際食糧農業機関)とWHO(世界保健機関)の合同食品添加物専門家会議が2010年に「暫定耐容週間摂取量を設定することは適切でない」(いいかえれば、
  少量でも摂取することは健康を害する)と判断しています。
   また、植物が土壌中の鉛やカドミウムを吸収すること、及び食物連鎖を通じて生物濃縮されることは常識です。だからこそ、鉛やカドミウムの汚染米が問題とな
  るのですし、地元では、そばの栽培をつうじてそばに鉛を吸収させて土壌汚染を軽減させていく「とんご会」という若者の取組みもあるのです。
   2018年2月26日に、私が④、⑤の回答の誤りを指摘するビデオを伊万里ケーブルテレビに収録・放映していただきましたが、検討委員会の委員の見解があまりに
  もお粗末ですので、今後も地元の人たちとともに伊万里市射撃場及びその周辺の土壌汚染問題の推移を監視していく必要があります。
   下平さんの遺志に報いるためにも取り組み続けていきたいと思っています。

   資料1:講演レジュメ 伊万里射撃場問題を考える
   資料2:意見書(伊万里市教育委員会宛て、2013年9月2日付け)